EP1-04 優秀、それ故に

創作 第一章 大魔女試練編
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一週間後。
シャロの言う通り、私は本当に一次試験・二次試験の両方の試験で1位の成績を修めて合格した。
そして、シャロも見事二次試験まで合格!ということで、私は最終試練の方に思考を切り替えることに。

「来週が最終試験だけれど…シャロはどんな試験だと思う?絶対単純な試験じゃないでしょう?うーん…」

「アナ…なんというか…切り替えが本当に早いなぁ……」

「?」

「…いや、なんでもない。昔からアナはとにかく優秀だしね」

シャロは、ほぼ苦笑いに近い柔らかな笑みを浮かべた。

(優秀って言ってくれるのは嬉しいけれど、大魔女になるには…もっと頑張らないといけないわ。私なんてまだまだ彼女たちには程遠いんだもの。)

「…ねぇ、アナ。」

「どうしたの?」

「その…前に家に来てくれたとき、話してくれたこと…あれは本当なの?」

「あぁ…あのことね。」

私は振り返って、こちらをまっすぐに見つめてくるシャロにこくりと頷いた。分かりやすくシャロの顔が険しくなる。

「そ…っか。アナがあんな冗談つくような子じゃないっていうのは分かってるんだけど、どうしてもあの後から信じられなくて。」

「無理がないわ。私も初めに知ったときはかなり困惑したもの。」

ふぅ、とため息を軽くつくと、私はシャロの前にあった椅子に座り込んだ。
…「魔界の何もかもが壊れかけている」、その事実が発覚したのは最近のこと。
壊れ「かけ」であって、まだ大きな異変が起こったわけではないのだけれど、この魔界は明らかに以前とは様子がおかしくなっていて…
しかも、たちが悪いのは、明らかにおかしくなっている割に、その現状に気がついている魔界人が少ないということ。私もシャロも、別の誰かに言われるまでは気が付かなかったくらいに。
どう壊れかけていて、どんな異変が起こりそうなのか…あまりにも凄惨で、口にも出したくない。

「私が大魔女になりたい理由…それは、今の壊れかけた魔界を元に戻すこと、それも目的の一つなのよ。」

「大魔女という権力を持つことで他の魔女たちへの影響力を高めて、そして今の魔界の現状を説明し理解を得る。そして、アナの手でもうすぐ来るであろう異変を消す…ってところかな。」

「そう…そのとおりよ。ねぇシャロ。今日またあなたの家に私を呼んでくれたのは、その話をするためだったの?それとも、他になにか要件があったのかしら?」

シャロは二次試験の結果が分かってすぐに呼んできたから、大魔女試練の前になるべく早く伝えたいことがあったんじゃないかと思ったのだけれど…合っていたかしら。

「当たりだよ。…ねぇアナ。これはずっと前から思っていたことで、大魔女試練の前に言いたかったことなんだけど、きみは…
_どうしてそこまでして無理をするの?」


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同時刻。

「ルミカよ。…前に話した件のこと、覚えているか?」

「も、もち…もちろん、だ、よ。わたしが、ええと、前回、ここに来た時の…こと?」

人気が殆ど無い、魔界の教育機関が保有する研究施設、その一角にその二体の魔女はいた。
腕を組んで気怠そうな雰囲気の小柄な魔女と、気弱そうで、身に纏うパーカーのフードを深く被った猫背の魔女だ。

「ああ。今日もそのことを話すためにお前を招いた。ここなら誰にも聞かれまいしな。」

「知ってるのは、現状、グレシアと…ダイアナさんと…わたし、だけ、だよね。」

「加えて先日、ダイアナは友人のシャロ・アミーツにも同様に伝えたらしい。まぁ、彼女なら問題はあるまい。今も二人でアミーツ宅にいるそうだ…詳細を話しているのだろう。」

「じゃあ、まだ、4人しか知らない、超機密情報…なんだね?」

この二人の魔女は、ダイアナに異変の存在、これから起こりうる詳細を伝え、また自力で異変の存在に気付いた魔女達であり、魔女の中ではただ二人の稀有な存在だ。

「そういう事になるな。それにしても…あの女は生真面目すぎる。それ故、自分の処理能力を過信し、自らを破滅に追いやっていることに気付けていない…哀れなものだ。あの女には“協力”という概念が脳みそに詰まっていないのか。」

「それは…ダイアナ、さんの…こと?で、でもえと、ぁあ…確かに…かも?」

うーん、とダイアナのことを思い出しながら首を傾げるフードの魔女は、ハッとしたように顔を上げた。

「そ、そうだ、この前も、『協力しましょう』って、言われたのに…お仕事、み、みんな一人で、終わらせちゃったんだ…」

「…………成程。概念はあるのに言葉の意味を理解していないのか…」

肩をすくめた魔女は、もう一度学校へ送り直すか?などと真面目な顔で呟いた。くすりと気弱そうな魔女は笑ったが、今度は真面目な顔に切り替わる。

「ダイアナさん、だけじゃないよ…私達、17長魔女と、大魔女様達を中心として…魔界のみんなの力で…絶対に、異変を、起こさせない…」

「……ふむ、最近はなかなか、頭らしくなってきたではないか?初期の頃のルミカとは見違えた。」

「そ、それは、グレシアと、ダイアナさんのおかげだよ…」

少し恥ずかしそうにフードに手を掛けると、ふにゃりと嬉しそうに笑った。

「だから、二人には、絶対無理はしないで、ほしいんだ…」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「アナ…」

誤魔化されてしまった。
こうなることは分かっていたけれど、アナはやっぱりどうやっても、私の問いかけには答えてくれなかった。

「ふふ…急にどうしたの。」

「私は無理なんてしたことがないわ。そりゃあ、鍛錬を怠ったこととか…そんなことは無かったけどね。」

「私は絶対に魔界を救いたい。ただそれだけなのよ。」

これで、終わりだった。

「今日はこれで失礼するわ。またね、シャロ。次は試験会場で会いましょう!」

「うん…気をつけて。また会おう。」

にっこりと笑いかけられてしまって、私はアナを送り出す以外にもう何もできなかった…
でも、やっぱり。
きみはやっぱりどう見ても、笑っていなかった。

「はぁ…やっと頼ってくれたと思ったのに。」

アナが嬉しそうな顔で家に来てくれた時、そしてその後、深刻そうな顔で魔界の異変について細かく、分かりやすく教えてくれた時。
嬉しかった。そんな大事なことを教えてくれるなんて、ちょっとは頼ってくれるのかなって思ったんだ。
でも…今考えてみれば、あれは報告だけだったな。アナは「助けて」「協力してほしい」なんて言葉は絶対に使わなかった。今までも、ずっと。
アナは…「応援してほしい」「あなたも気をつけて」そして、「私一人で何とかしてみせる」。
ただそれだけ…自分が無理していることに気づけないで、それだけなんだ…

「私だって、アナを救いたいよ。」

どうか、私達も頼って。自分だけに任せきって、大事なことを一人っきりで背負わないで。
手遅れになってしまう前に……



次回 第五話「試練と英雄」

ハノウ


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