あかしげやなげ

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光が落ちた。

朝日が丁度顔を出したその時に、消えゆく夜に触れるが如く光が落ちた。
光が夜の間近を泳げば、残光は緩やかな弧を描いてみせる。しかし露のような弧が濡羽色の夜に届くことはなく、ただゆっくり、ゆっくりと風すら凍る極寒の早朝に落ちて冷たくも温かい深雪に埋もれた。

空は青くなかった。
青よりもさらに深く、しかし雲は金に輝き。さらに段々と落ち着いて、茜雲の流れる地平線となる。地平線のさらに奥を見れば、悠々たる山脈が世界を覆っていた。そんな山々を撫でつけながら流れる風が、凍るまいと低い声で鳴くものだから、新雪に埋もれた光も鳴こうと試みた。しかし声などあるわけもなく、それすら知らない光はただ鳴こうと繰り返す。その合間にも風は吹き、どこか遠くへと去って行った。だが風の行き先など光には知り得ないこと。頭の中は鳴くことだけで一杯だった。この世界で初めて知った“鳴く”と言うそのことだけに、光の意識は向けられていた。

暫くして、光の近くを人が歩いて行った。
人には光が見えなかったようだが、光には人が良く見えていた。そこで光は歩くことを知った。そして体というものを知った。しかし光はまだこの世に落ちて一日も経っていない。喜怒哀楽もはっきりとせず、ただ好奇心ばかりが強い赤子同然のものだった。なので光は鳴くことをすっかり忘れて、歩いてみようと動き始める。その前には体がなければならないのだが、歩きたい一心で動き始めた。

運が良かったのだろう。それか神に愛されていたのだと思う。

小さな光にはチャンスが与えられた。

光のすぐ近くを鼠が横切る。

“体”と光がまだ言葉にできない意識を思いついた時には、鼠の体に乗りこんでいた。先程まで異変なく歩いていた鼠は、急に歩き方を忘れたかのように転がってしまった。四肢を空に向けてパタパタと動かし、何かがおかしいと思いながらも動かし続ける。

光は愛されていた。

寒い寒いと繰り返す風が戻ってきて、枯れた葉っぱを一枚落とした。落とされた葉は雪の上を跳ねて、鼠に引っ掛かるとその背を押した。押された鼠は転がって、四肢を地面にくっつける。そして動かせば

「チュウ」

鳴けた。歩けた。体も。

しかしその背後には狐が忍び寄っていた。
光がいくら神に愛されていたのだとしても、食物連鎖ばかりはどうしようもなかった、呆気なく鼠は狐の腹の中に納まり、そして狐が空に四肢を向ける。“歩くことを忘れたかのように”狐の足は空を掻き続け、それを見守るかのように流れ星が一つ、山々を横切る。この頃にはすっかり夜も明けて、遠くからは鳥の声が聞こえて始めていた。

ふと冷静になった光は狐の体を理解し始め、心もとない足取りながらも起き上がる。祝うかのように流れ落ちる星々に楽しくなって、そのまま柔らかい新雪の上を走り始めた。

それを繰り返し、いつしか光は空を舞う大きな鳥となった。

凍るまいと低く不愛想に呟いていた風は、いつの頃からか楽し気に笑うようになり。雪は解けて青い香りがかすかに漂い。そしてついには春となる。光が落ちたあの場所には驚くほどの花々が咲き誇り、旅人の休息地となっているらしい。そんな話を光は遥か空から聞いていた。まだ春先の冷たい風を大きな翼に受けながら、緩い弧を描いて聞いていた。

そんな弧の中心に座る、とある旅人がこう言った。
その旅人は満開の花々に埋もれながら、美しい連峰の景色を眺めている。

「知ってるか?ここから南に行くと繁盛している国があるんだと。海に恵まれた良い場所らしい。」



南とは

小首を傾げて旅人を眺め続けていれば、その者はとある方向を指さした。ということはあちらが南とやらなのだろう。そう判断した大きな鳥は、あの頃の好奇心のままに進み始める。

「だがその国は今戦争中でな、どうにも大変らしい。」

と、そんな言葉を聞き逃して。



▪次回メモ
見事な緋色、緋色、濁った空に、鮮やかな

▪手記
敵にとっての厄災は味方にとっての幸運である
少なくともあの時我々は幸運であった

厄災に感情などないと気付くまでは

訂正:敵の敵が味方であるとは限らない

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文章強化中。正規品支部投稿。

基礎:scp緋色の鳥よ
追加:七羽の小鳥、生存権


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見事な緋色、緋色、濁った空に、鮮やかな
poidf(ポイドフ) 2 1

南についたのは深夜だった。 光が光として輝いていたあの頃のような、シンと静ま...



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