わたしのしょうせつ、よんでください!
小説最高ランク : 14 , 更新: 2019/01/12 12:05:27
途中でエタった作品の狂った戦闘シーンを紹介するぜぇっ!!
『お江戸ライフ!』より。
目を離していないのに、気が付くと女は刀を構えていた。白く、透き通るような刀だった。
宵闇を照らすが如くそね一振りの存在感は、まるで常軌を逸している。いずれ敵対し、刃を交えるのなら──酔いが回っている今が好機か。
キィン...
一際甲高い音を立てて青白い火花が散る。交わった互いの力は互角。
鍔迫り合いの中、相手の刀が月明かりを浴びて桜の花弁のように乱反射する。その、どこまでも純粋な輝きと、まるで反比例しているような己のナイフ。
漆黒を彩ったそれは、現の悉くを凌辱する暴力的な闇。決して光輝く者が手にとってはいけない、底知れぬ深淵。
「ハハッ...」
長身の女は野蛮に、然れど美しく笑った。妖艶に嗤った。
──嗚呼、今はその全てが憎たらしい。
未だ眼前で跳ねる火花を見つめ、体制を半歩分、右に反らす。
すると、拮抗していた力は釣り合いが取れなくなり、相手は思わず前のめりになる。
瞬間、勢いよくナイフを右に弾く。
「ッ!!」
抑揚をつけて全力で横に弾いたのだ。例えば──刀が持っていかれても、おかしくはない。
相手の腕が完全に左へ跳ねる。にべもなく、その刹那の隙を狙う。
がら空きの脇腹へナイフを突き刺す。
が、
「っぁぁぁあああ!!」
寸前で背中に衝撃が走り、肺から空気が漏れたかと思うと次の瞬間には遥か彼方へ吹き飛んでいた。
どうやら回し蹴りをモロに食らったらしい。
「──ガッ!」
等速直線運動に終止符を打ったのは桜の木。胸と後頭部を同時に強打し、ほんの数秒意識が切れる。
しかし、戦闘中に意識を失うなど下策中の下策。瞬時に舌を噛みきり、なんとかして意識を繋ぐ。
「ぐっ、ぁ...この、クソゴリラめ......」
思わず愚痴が漏れる。
──それが不味かったのか、或いは元よりその算段だったのか。相手は雷鳴にも似た速度で距離を詰める。
人間とはとても思えない相手の脚力は、そのままの勢いで突っ込んできて、
「ハァッ!!」
そんな雄叫びと共に、異様な質量を伴った風が吹き荒れる。
咄嗟に顔を背け、横目で相手を視認する。
俺の顔がさっきまであった場所には深々と膝がめり込んでおり、直撃した桜の木には推定直径十センチもの穴が空いていた。
だが、相手の攻撃は終わってなどいなかった。
既に天に伸ばされた腕にはあの純白の刀が握られている。
まずい、即座にそう判断し、ナイフを逆手に持ち変え顔の前に突き出す。
「オオッ!!」
先程よりも数倍重い衝撃が腕を襲う。思わず落としそうになったナイフを握り締める。
直ぐ目の前をやはり火花が飛び散る。こちらも前回とは訳が違う。
──だが、ここは既に俺の間合いということを、どうやら相手は認識していないらしい。
仁王立ちになっている相手の足ほど、掬いやすいものはない。足を掛け、バランスを崩させる。
優雅なその顔が一瞬焦りに歪み、思わず俺から視線を外してしまう。
「甘い!」
崩れたバランスに畳み掛けるようにしてナイフを押し戻す。そしてお返しと言わんばかりに右足をしならせ、相手の脇腹に蹴りを入れる。
「カハッ!」
体をくの字に曲げ数十メートルほど吹き飛んだ当たりで、やはり桜の木によって運動を止める。
極度の緊張による息切れ、死が目の前まで迫ったことによる胸の高鳴り、いつの間に額が割れていたのか流れ落ちる鮮血。
俺は今、生きている───
「...ハ、ハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
命の揺らぎを感じ、思わず笑わずにはいられなくなる。この瞬間こそ、俺は...宵越 明星は生を感じられる!!!
自分を死の淵に立たせることで己の魂の存在理由を証明する。ああ、全ては目的のため。全ては姉のため。
かつては人のためと剣を取った、そのいずれにも裏切られ、失望し、そして狂った。...狂うことでしか自己を救えなかった。
桜の下の影が、ゆらりとゆらめく。
乱れた服や髪。ゆっくりと立ち上がるその様はまさに幽鬼。
乱雑に前に流れる亜麻色の髪の毛の隙間から、
──紅く揺れる双眸が、こちらを射抜くような視線で睥睨していた。
「...死兵の眼差し、か」
恐らく、相手は俺を殺すか殺されるかしない限り止まろうとしないだろう。
現に、確実に骨の二三本は逝ったはずの体でも元気に突撃の準備をしている。
「...お前は、必ず後の禍根となるだろう。──任せろ、これでも斬首だけは得意なんだ」
負けじと殺気を織り混ぜて睨み返す。
天に昇る紅の月だけが、殺意迸る二人の姿を静かに見つめていた。
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